米国市場依存リスクの軽減策|VTI投資と国際分散の組み合わせ
By Staff | 2025-10-15
Category: インデックス投資
ここ10年以上、S&P500やVTIといった米国株指数は世界の株式市場を圧倒してきました。Apple、Microsoft、NVIDIAといった巨大企業の成長が市場をけん引し、投資リターンの中心となっています。
しかし、この「米国一極集中」は裏を返せば、ポートフォリオ全体が米国経済や米ドルの動向に強く左右されるということでもあります。
米国株が世界時価総額の約60%を占めている現状では、確かに米国中心の投資戦略は自然な流れです。
それでも依存リスクを無視できない理由は、以下のような要素にあります。
・ドル円為替の変動リスク
・米国の金利政策やインフレ動向への過度な影響
・特定の大型テクノロジー銘柄への集中
・米国景気後退時に他地域でのヘッジが効かない構造
特に近年は、S&P500構成銘柄の上位10社で指数全体の30%近くを占めるとも言われており、「分散しているようで集中している」状況が進んでいます。
つまり、VTIを保有していても、実際には米国経済と米ドルの波に強く依存しているのです。
VTIの強みと限界
VTIは米国市場全体に投資できるETFとして世界的に人気があります。
低コスト・高分散・高流動性という三拍子がそろっており、長期投資の基本商品といえます。
VTIの強みとしては、
・米国の成長力を丸ごと取り込める
・個別銘柄のリスクを排除できる
・経済規模が大きく、構成企業の安定性が高い
といった点が挙げられます。
一方で、その「米国内での分散」に留まってしまうのが限界でもあります。
世界に目を向けると、ヨーロッパ、日本、アジアなど他の地域も独自の成長サイクルを持ちます。
米国が金利上昇局面にあるときに、他の国・地域が金融緩和を進めていたり、あるいは資源国が恩恵を受けていたりと、景気のタイミングが異なることが多いのです。
また、為替ヘッジのないVTIを円建てで保有する場合、ドル円相場の影響は避けられません。
たとえば2020〜2022年のように円安が進行した時期は為替益がプラスに働きましたが、逆に円高局面では米国株が上昇しても円換算で利益が目減りすることもあります。
国際分散投資の考え方
世界経済は今や米国だけでなく、多極化が進んでいます。
中国、インド、東南アジアなどの新興国は高い経済成長を続け、欧州や日本も周期的な景気回復を繰り返しています。
このような地域の違いを取り込むのが「国際分散投資」です。
米国株が強い時期があれば、欧州株や新興国株が相対的に優れる時期もあります。
実際、2000〜2007年には米国株が低迷する一方、欧州株と新興国株が大きく伸びました。
MSCI World ex US指数(米国を除く先進国株)やMSCI Emerging Markets指数のリターンはこの期間で年率約12〜15%を記録し、S&P500の約2倍のパフォーマンスとなりました。
このように、地域ごとの経済サイクルの違いを活かすことで、全体のリスクを和らげる効果が期待できます。
つまり、国際分散とは「どこかが下がっても、どこかが上がる」仕組みを作ることなのです。
VTIと国際分散ETFの組み合わせ例
VTIを軸に、海外ETFを組み合わせることで、米国市場への依存度を抑えながら世界全体の成長を取り込むことができます。
以下は代表的な組み合わせパターンです。
例1:VTI+VXUS(米国外株ETF)
・VTI:約70%(米国)
・VXUS:約30%(先進国+新興国)
この組み合わせは、事実上「全世界株式ETF」と同じ構成になります。米国中心ながら海外の成長も自然に取り込めます。
例2:VTI+VEA+VWO(地域別分散)
・VEA:先進国株(欧州・日本・オーストラリアなど)
・VWO:新興国株(中国・インド・ブラジルなど)
地域ごとに比率を調整したい投資家に向いています。
たとえば、VTI60%+VEA25%+VWO15%といった配分もよく見られます。
例3:VT(全世界株ETF)を利用
VTはVTIとVXUSを1本化したETFで、全世界の約9,000銘柄に分散されています。
コストはわずかに高いものの、シンプルに「世界経済全体に投資する」手段として有効です。
実際、2013〜2023年の10年間で見ると、
・VTI(米国株):年率約11.2%
・VXUS(米国外株):年率約5.3%
・VT(全世界株):年率約9.4%
という結果になっています。
米国株の比重が高いVTは、VTIよりやや劣るものの、国際分散を取り入れた構成としては安定したパフォーマンスを示しました。
円建て投資家にとっての視点
日本の投資家にとって、ドル建てETFを保有すること自体が一種の通貨分散になります。
円の価値が下がる局面では、ドル建て資産の評価額が上昇し、インフレヘッジの役割も果たします。
逆に円高局面では評価額が下がる可能性がありますが、定期的に買い増す積立投資であれば、円高時はむしろ割安でドル資産を積み立てられるチャンスにもなります。
また、海外ETFを通じて複数通貨・複数地域に分散することで、為替の偏りそのものを緩和できます。
為替は長期的に見れば上下を繰り返すものの、必ずしも一定の水準に戻るとは限りません。
かつてのような1ドル=75円といった超円高が再び訪れる可能性は低く、むしろ金利差や経済構造の違いから、円安基調が長く続く可能性もあります。
一方で、世界的な景気後退や金融政策の転換次第では、円が急騰する局面もあり得ます。
こうした為替の方向性を正確に読むのは極めて難しいため、定期的な積立やドル資産・円資産のバランス保有で、時間と通貨の両面から分散するのが現実的です。
まとめ|米国中心でも「世界視点」を持つ
VTIは長期投資の中心となる優れたETFですが、完全ではありません。
米国の成長に依存しすぎると、経済や為替、政策の変化にポートフォリオ全体が左右される可能性があります。
一方で、国際分散を取り入れることで、
・地域ごとの成長を取り込める
・景気サイクルのズレを利用できる
・為替・政策・セクター偏重を和らげられる
という大きなメリットが生まれます。
ただし、インデックス投資の生みの親であるジョン・ボーグル氏は、必ずしも国際分散を推奨していませんでした。
彼の考えでは、米国企業の多くはすでに海外で事業を展開しており、VTIやS&P500に投資すること自体が「間接的な国際分散」になっているという立場です。
また、政治的・法的な安定性や透明な企業統治など、米国市場が持つ制度的な強さこそが、最も優れたリスク・リターンをもたらすと述べています。
つまり、どちらが「正しい」ではなく、どの視点を重視するかの問題です。
ボーグル流に米国一本で行くのも合理的ですし、世界の多極化を意識して国際分散を取り入れるのも有効です。
大切なのは、自分のリスク許容度や投資期間に応じて、どこまで米国依存を許容するかを明確にすることです。
投資の軸をVTIに置きつつ、VXUSやVTで世界に広げる。
または、あえて米国一本で行く代わりに、リスクを長期保有と積立によって吸収する。
どちらのアプローチでも、最終的な目的は「長期で市場のリターンを取り続けること」にあります。
この「米国中心+世界視点」の考え方こそ、これからの長期投資における現実的で堅実な戦略です。
米国市場への投資をより深く理解したい場合は、全米株ETFであるVTIの構造や特徴を解説した「VTI徹底解説|全米株ETFの特徴・リターン・投資戦略」もあわせて参考にするとよいでしょう。
FAQ
Q1:VTIだけで十分では?
VTIは優れた商品ですが、米国偏重リスクを避けたい場合はVXUSやVTを組み合わせるのが現実的です。
Q2:国際分散はリターンを下げるのでは?
短期的にはそう見える時期もありますが、長期的にはボラティリティを抑え、安定的な資産形成に寄与します。
Q3:どの比率が理想ですか?
目安としては、VTIを中心に全体の70〜80%を米国株、残り20〜30%を海外ETF(VXUSやVTなど)に配分する形がよく採用されています。
これは、米国株が世界株式時価総額の約60%を占める現状を踏まえ、やや米国を多めに組み入れる現実的なバランスです。
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投資忍者 プロフィール
米国株の投資情報、個人投資家向けの投資戦略、米国株式投資関連情報などを配信しています。
「企業の業績と株価は長期的に統一する」という考えで、米国株の長期的投資をしています。オプション取引では短期的には市場はランダムに動くと考えて取引しています。
元米国不動産アナリスト。米国MBA保有。海外生活約25年。個人投資家兼オプショントレーダー。